昔、寅さん映画の特集を松竹の直営館で観た時に観客の笑い声で、次の台詞が聞こえなかったという残念な現象があった。
もちろん、私も爆笑した一人だったが・・😂
逆にシーンが変わるとすすり泣くような声がしたり、映画が終わってドアを開けて出てくると目に涙を溜めている中年の男性も見かけた。
今回は第42作ぼくの伯父さんより、風景画について山田演出の真髄を探ってみたい。
寅さん映画の風景は絵葉書のように綺麗だがなぜあんなに懐かしさを感じるのでしょうか。
山田監督は言う・・
「風景だけが浮いている映画ってのはダメでしょう。風景を撮る前に、寅さんののどかな性格が描けているから風景も生きてくるんじゃないかな」
「点景」を入れると風景が生きてくる・・
さらに山田監督は・・
「風景を撮る時は、何かを置くことがひとつのコツかもしれませんね」
監督の演出意図を的確にくみ取って、何かを加えながら具体的な画にしていくことが、カメラマンの大きな仕事として山田作品のほとんどの作品を担当している女房役とでも言うべき高羽哲夫カメラマンは、風景画の中に、人物、動物などを添えて趣きを生じさせることを点景という言葉で表現している。
花を添えてのどかで美しい雰囲気を作る・・
寅さん映画には、四季折々の草花が必ずと言っていいほど、あるカットのどこかに位置を占めて、のどかで美しい雰囲気を醸し出している。
実はそれは偶然にあるものではなく、綿密に計算されて作られたものでスタッフがポイント、ポイントに植えたものだという。
水・早朝・夕ぐれの風景に人の営みを加える・・
泉の母の実家がある佐賀県をロケ地にしていて風景を写す時、この地は水が見える場合が多い。山田監督は特に画面のなかに水が出てくるのを好む。
理由は「画面がしっとりするから・・」
チュンチュンと小鳥の声が聞こえる朝、橋下の川で長靴を洗っているおばさんを写している。
カメラがパンアップすると、朝もやのなかを通学する女学生の自転車が横切って行く。
他の作品でも山田演出には、よくこのようなシーンがありますね。
この時、自転車が横切るのと、横切らないのとでは、その趣がまったく違う。しかもこれがニキビ面の男子生徒では興ざめなのだ(笑)
やはり、セーラー服を着た無垢の乙女でなくてはならない。理由は・・
「登下校の女生徒が乗った自転車を走らせると、朝夕の風景になる。町のひなびた感じが出て、しかもさわやかになる」
この美しい夕景を撮るのに三日間、待った・・
泉と満男が河原で座っている場面で・・
遠くにエプロン姿のおばさんが出てきて・・
「ご飯よ、はよ帰らんねぇー!っ!」と方言で子供を呼ぶシーンを入れて郷愁を感じる見事な場面となる。 「巨匠たちの映画術 キネマ旬報社」より
渥美清さんが没後、国民栄誉賞を授与されました。
冒頭の映画館の話に戻りますが・・・
男はつらいよシリーズは9作~42作まではお盆と正月に封切られていましたが、地方から東京に働きに出てきて故郷に帰れなくなった人が多くいました。この映画を観てどれだけ癒されたか・・ある著名人は、このシリーズにも国民栄誉賞を授与してもいいと言っていたのを憶えています。