昭和世代の映画雑学

『映画の映像技法』には監督の様々な「狙い」がある!?

今や生成AI技術によって画像、音声、動画など様々な分野で活用されている時代にあって、かつての名画を家庭で気軽にブルーレイディスクで観たり、フイルムの4k修復でDVDを非常にクリアな映像で観ることが当たり前になっている。

一方で切り口を変えて映画鑑賞していると、監督の思惑によって様々な映像技法が発見できて興味深いんだよね。

この記事では、各監督の映像スタイルや作品に対しての映像技法の狙い、思惑、秘密をお伝えします。これを知ると、映画を観るのがグッと面白くなるよ。

映像全体のカラートーン
を決めている作品

こだわりによる撮影方法では作品のイメージを考えてカラートーンを統一する映像スタイルがある。

~「グリーンブック 」 アカデミー賞 2019年 作品賞・助演男優賞・脚本賞 受賞~

黒人の旅行者が人種差別からトラブルを起こさないため、利用可能な宿泊施設やレストランが記された旅行ガイドブックの「タイトル」にもなっている名称をモチーフにして、作品全体の映像がグリーンのトーンで統一されているのに気が付く。

~「ゴッドファーザー・ゴッドファーザーPARTⅡ」同じシリーズで2度のアカデミー賞受賞~

マフィアの犯罪映画に留まらず、イタリア移民家族の大河ドラマに相応しい重厚でノスタルジックな「琥珀色」の映像美が素晴らしいよね。

~「ALWAYS 3丁目の夕日」3部作 笑って泣けるハートウォーミングな邦画~

昭和という時代の下町を舞台にした人間模様を描いた本シリーズは、レトロな雰囲気に溢れていて、この時代を懐かしむような黄味がかった映像が印象的なんだ。

その他にも、北野監督による映像全体が青みがかったトーンでまとめられている「キタノブルー」なんかもあるよね。

何か独特のカラートーンがある作品を探すのも面白いかもよ・・・。

サスペンスを
盛り上げる映像とは?

松本清張作品ではサスペンスが必要不可欠ということになるが、観客に緊張感や不安定な状態を与えたり、登場人物の不安な心情を映像で現わすことになる。例えば監督の意図にによって、天候や風景の描写で現わします。

第33回日本アカデミー賞の11部門で優秀賞を受賞した、「松本清張」生誕100年を記念して2009年にリメークされた映画「ゼロの焦点」(犬童一心監督)のなかでサスペンスを盛り上げる映像シーンがある。

それは、主人公が能登の出張先から戻らず消息不明の夫の安否確認のため汽車で向かうシーンです。真冬の荒涼とした北陸日本海の黒く重たい青みがかった映像と水平線特有の丸みを帯びた傾き、今にも荒々しい波が襲い掛かってくるような、主人公の不安な気持ちと見事にかさなってサスペンスを盛り上げている。

モノクローム映像の特性を活かした監督の狙いとは!?

また、リメークの元となった1961年の作品「ゼロの焦点」は野村芳太郎監督によってモノクロ映像の映画で製作されていますね。

2作品とも共通するシーンがあって、犯人が消息不明の夫の兄にも犯行を及ぼすサスペンス溢れるシーンがありますが、松本清張の原作本では「犯人は桃色のスカーフと赤いオーバー」という派手な服装という設定です。

2009年に製作された作品での映像では、、粗い粒子という映像の効果もあり「背筋がゾッとする」シーンですが、犯人は原作と同じく真っ赤なオーバーを着ています。

では、1961年に製作された映像は赤いオーバーを着たまま、モノクロのフイルムで撮影されたのだろうか?

答えは、「派手」がキーワードになっています。

イメージ画像になります^^
1961年度版「ゼロの焦点」の場合は・・

」ではなく「」なんですね。大きな格子柄です。

タータンチェックとも呼ばれ今でも派手な印象を受けるが、当時は尚更だと思います。巧みにモノクロ撮影を活かした映像ですね!

☆ちなみに、「犯人の前の職業が派手なオーバー」に紐づけされているのが、このシーンの伏線になっている。

黒澤明監督「天国と地獄」
1963年公開

映画のタイトルの由来は、丘の上に構える邸宅に住む富裕層と、それを見上げるように粗末なアパートに住む貧困層の対比から来ていると思います。

この作品は、私が初めてハマってしまった黒澤作品で地元の名画座で観ました。

身代金誘拐事件をとりあげた映画で、犯人が靴会社の重役の子供と間違えて「専属の運転手」の子供を誘拐してしまう発端部分から、上映時間2時間23分の間「息つく暇もない」ほどのサスペンスで圧倒されます。

黒澤監督は、日本の映画が初めてカラーになった作品から10年以上経っても、白黒映画にこだわっていました。理由は思ったような色が出せないということでした。元々は画家志望だったということもありますね。

この映画で、当時では画期的な映像の試みをしています。前半部分で犯人に身代金を渡すカバンに特殊なカプセルを埋め込みます。

「水に濡れると異臭が出る」「燃やすと牡丹色の煙が出る」これは小道具を使った重要な伏線になっています。正直言って、私はサスペンスの連続でこの伏線はすっかり忘れていました。
ドラマの中盤以降、刑事が小高い丘の上にある主人公の邸宅へ捜査報告に行った時に「ママ、きれいだよ!」という子供の声が聞こえます。

刑事達は、急いで窓の方へ駆け寄ります。眺望の良い窓から見える焼却用の煙突からモクモクと「オレンジ色の煙」が!

 

モノクロームのスクリーンに煙の色だけ「カラー映像」は充分にインパクトがありましたね。

ザクっと言うと、CGのなかった時代に「オプチカル処理」というモノクロ画像に色を入れるという手法で、この神業的な映像を作っていたとか。

今では当たり前にデジタルの技術で映像処理ができ、テレビのコマーシャルでも時々、見かけますね^^

黒澤明監督をリスペクトする、フランシス・フォード・コッポラが「ランブルフィッシュ」で、スティーブン・スピルバーグが「シンドラーのリスト」で使用している。

「白黒の映画は、イメージが暗くて嫌だ」という人も是非、ご覧になってください。若い世代の人は多少の「時代感」の違いはありますが、俊逸な設定・ストーリーの面白さ・サスペンス、ダイナミックなモノクロームの映像、すべて超一級品です。この作品は「日本映画ってスゴイな!」と改めて思わせてくれる。

コーヒータイム  ちょっと、ひと息 。○○ 
黒澤作品の映像美!俳優さんは大変!?
今さら私が言うまでもありませんが、黒澤明監督の作品には何であんなに画面に緊張感があるのでしょうか?

黒澤作品には様々な伝説があり詳しい方はご存知かと思いますが、その一因となるものに全ての被写体にピントを合わせた(パンフォーカス)超望遠レンズで撮影しているためです。つまり、画面に映っているすべてのものにピントがあっているということですね。当時のフィルムの感度も含めて、必然的にライティングで相当の光量を必要とします。時代劇の黒澤作品では、被っているカツラから煙が出ているというエピソードは有名な話です~◎

映画「天国と地獄」のラストシーンでも、犯人役を演じる山崎努が刑務所の面会室で金網にしがみつく場面がありますが、ライティングの熱で熱くなった金網を強く握り締めた為に傍にいた撮影スタッフから手から煙が出ていたという証言もあるそうです。

リアリティーに
こだわった映像とは?

先程の1961年版「ゼロの焦点」の3年前に公開され、同じく野村芳太郎監督が演出した「張込み」とい映画でリアリティーにこだわった映像の試みをしています。

ストーリーはシンプルで、「殺人犯と3年前に別れ、今は主婦として家庭を持っている女性の前に、犯人が現れるのではないか・・」と張込みをするという内容です。
刑事は旅館の部屋の窓から、掃除、洗濯、買い物、炊事、風呂を沸かすなどの家事を克明に観察します。

オールロケで自然光による撮影ですが、これを野村監督は映画の中で「諸々の家事をする時間」と同じく実際の撮影も同じ時刻に撮影しています。つまり、実際に部屋に入る日差しは映画のシーンとシンクロしています。


【引用元】「巨匠たちの映画術」 西村雄一郎 著 キネマ旬報社

このディテールにこだわった映像スタイルは、監督の余程の強い意志がないと、ちょっと無理だと思うよ(汗)

エキストラを使わない、群衆シーンの映像技法とは!?

一般に白黒映画から受けるイメージは、古い、暗い、と言う人が多いですね。現代は、デジタルの進歩で実写でもアニメでもカラー映像のクオリティーも非常に高いですね。
しかし、白黒映像ならではのドキュメンタリータッチの効果を生み出す撮影技法もあります。

多くのエキストラを集めなければならないことを逆手にとって、一般の人を群衆シーンにに参加させています^^
その秘密は、殺人が行われた犯行シーンの撮影現場を見学しに集まった「野次馬」をそのまま望遠カメラで隠し撮りしたそうです。

この撮影技法は素晴らしく、白黒時代のニュース映像と錯覚してしまう程のリアリティー効果があり、まさに「省エネ撮影」なんでしょう^^

お気に入りの映画で「群衆シーン」の映像を観たら、、エキストラか、そうでないか、探ってみるのも面白いですよ。

カラー映画におけるリアリティーにこだわった映像とは・・

現在も多くのフアンがいる山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズで度々、「絵葉書」のように美しい地方の風景のワンショットが入ります。これは「寅さんフアン」の間ではもうお馴染みですが、ただ風景が写っているだけではありませんよね。。

例えば、早朝のショットには朝もやの中を自転車で登校する女子高校生が呼び鈴を鳴らして通り過ぎたり、牛乳配達のカタコトとなる音、夕暮れ時には外で遊んでいる子供達の描写や母親が子供の名前を呼ぶ声が、地方の美しい風景をバックにこだまのように聞こえます。

 

 

このようなワンショットの描写は、その土地で暮らす人々の生活感や、山、川、季節の草花の美しい背景などが一体となって郷愁を感じてしまいます。これも、カラー映画ならではのリアリティーです。

当時、家族を離れて地方から東京に働きに来た人、とくに帰省が出来なかった方は、この映画を観て「かなり、癒された・・」のではないでしょうか。

「男はつらいよシリーズ」では地方の沿線の「昭和時代の懐かしい電車のショット」が、度々スクリーンに映し出されます。SLフアンなど興味がある人は、探してみてください。

寅さんは「新幹線」には乗らないから(笑い)

まとめ

自分の好きな映画だったら、もう一度観たいと思いますよね。そして視点を変えることをちょっと意識して観ると、いろいろな発見があって益々その作品や監督の演出が面白く興味深くなったりするんだよねえ。これぞ映画鑑賞の醍醐味ですね。


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