寅さん!

【男はつらいよ】国民的兄妹☆渥美さんの姿を傍で見続けた

『男はつらいよ』第1作のとき、
渥美さんが41歳、私は26歳。

以後26年にわたって私たちは
兄と妹を演じてきました。

ー 自著『倍賞千恵子の現場』/2019年インタビュー記事より抜粋ー

記念すべき第1作【男はつらいよ】1969年公開

お兄ちゃん!?  

   そうよ、お兄ちゃんよ!

 

第8作『寅次郎恋歌より』・・

さくらが本当のマドンナだったのではないか説・・

第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(1989年)のときのインタビューで渥美さんがこう答えてました。

「妹のさくらちゃんは、恋人と、妹さんと、それとおふくろと、それと永遠にいつもわがまま言っても大きく自分を迎え入れて抱きとめてくれた観音様みたいなものというのかな。それと、やはりどこかかわいい心配な妹と、そういう全体の要素を全部持ってんじゃないかね」

寅さんとタコ社長の喧嘩は名物シーンだった

おいちゃんやタコ社長とのつかみあいの喧嘩のシーンの撮影では、みんなケガをしないように、いつも身構えていました。そんなときの渥美さんの怒った目は真剣そのもの。全身に鬼気迫るものがあって本当に怖かった。お芝居なのに、それを越えた凄みがありました。そんなふうに渥美さんの笑いは「殺気のある面白さ」とでもいうのか真に迫って壮絶に面白いんです。

太宰久雄さんは寅さんが取っ組み合いの喧嘩をするシーンについて「渥美清が相手だと全然痛くなかった。立ち回りの手加減の仕方が絶妙でしたね」と語っていた。

思わず涙がにじむ、兄妹の情感あふれる別れの場面

寅次郎とさくらは幼き日の思い出をたどりながら、柴又駅で涙の別れをする。
シリーズ中、二人は何度も同じ別れを繰り返すのだが、幼年期のエピソードとともに、
さくらの寅次郎への想いがもっとも強く溢れ出すのが本作での別れ。
こちらでは倍賞千恵子の名演が光る。

なんかこう、孤立して孤立してるお兄ちゃんを(さくらが)心配する。(シリーズの最初)の頃、そいう話がいっぱいあったんですよね。あのシーンは、寒い時期に別れるってのはあんまり好きじゃないなあって思いながらやりましたね。「寒いじゃない。さびしくなっちゃう」って。そういう中での撮影だったのを覚えてますよ。

語り草となった撮影裏話・・🎬
これは有名なエピソードですが、電車の乗客はエキストラではなく本物。通常運行の電車が来て、一発本番撮りをしたが何度も撮りなおしになっちゃう。
本当の電車が来て、「おー、来た、来た、ハイ、回すよ回すよ」って山田さんが言って撮影スタートして。渥美さんは次の駅で降りてまた戻ってきて
また次の電車を待って。「あっ、(電車の色)違っちゃうねえ」なんて言いながらやってましたね。

 

あたし、2階のシーンって..結構好きでしたね。

旅に出るお兄ちゃんとふたりっきりになるシーン。『いつも切な~い!!』っていう思いをしましたね。
お兄ちゃんの素を見るシーンでもあったし。あのトランクに、少ない荷物を一生懸命こう、詰めるっていうね。一番最後の作品『紅の花~1995年、第48作』のときは、それが最後の作品になって。
ずーとスタジオを見渡していたのを憶えてますけど。
で、「おっ、お疲れ様」って降りていったんですよね。

 

映画のシーンもそうですが・・

スタジオの隅に立って、ポケットに手を突っ込んで自分の出番を静かに待っている姿。立っているだけで形がきれいというか、美しいというかその立ち方、在りかたに目を奪われます。
渥美さんはかっこよかったですよ。セットで照明の位置を確かめるために、何もせずに待っているとき、肩にふっと上着をかけて立っているとき。やっぱりかっこいい。肌はとてもきれいで、女性のように美しい手をしていました。

 

肝臓がんが肺に転移していたとのことです

ずっと辛かったはずです。晩年は一年に何度か入院して、治療しては撮影に入っていました。撮影に合わせて病気と闘っていたわけです。

 

ずいぶん経って、手紙の整理をしていたときです。渥美さんの奥様から頂いた手紙が出てきて、読むとやっぱりボロボロと涙が止まらなかった。ああ、いつも渥美さんはいつも私のことを本当の妹のように、娘のように気にかけてくれたんだ。大切にしなければいけないことを、私はいっぱい見逃していたんじゃないかな。とても、とても大切な人を失ってしまったんだな。

今も柴又を歩いていると、横道から寅さんがひょいと現れるような気がします。思わずはっとして、なつかしいような、せつないような、不思議な気持ちになります。そんなかたちで寅さんは、おにいちゃんは、渥美さんは私の中で生き続けていくんでしょうね。

ー 自著『倍賞千恵子の現場』/2019年インタビュー記事より抜粋ー



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